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戦うことを忘れた武装神姫 その26 ・・・その25の続き・・・ 再び、久遠のグラスの氷がカランと鳴った。 「・・・すまないね、『ゼリス』のことを答えるはずが僕の昔話で終わってしまったようだ・・・。」 「いえ・・・それで十分です。」 すっかり氷も解け、なかば水割りになろうとしているグラスを久遠はすっと飲み干した。 ヒトと対等に意思疎通ができる、ちっちゃいけれど頼もしい存在。 「死」すらも、恐れることなく正面から向きあえる程の強い存在。 ヒトに愛され、ヒトを愛することができる、優しく、温かな存在。 - ヒトは何故、「心」を持つこの「存在」を造り出したのか - うつむいたまま、ドツボにはまったかの如く黙り込んでしまった久遠。と、彼の目の前に新しいグラスが差し出された。 「・・・。」 はっとした久遠、見ればグラスを差し出したのは・・・心配そうなまなざしで、じっと久遠を見つめるエルガだった。 「にゃーさんの考えてること、にゃーにも、少しだけど判るよ?」 「・・・そうか?」 「にゃーたちが『戦わなくていいの?』て聞いたとき、にゃーさん、『戦うだけがすべてじゃないんだよ』って言ってくれたの、覚えてるよ? だから、にゃーたちも時々、なんで神姫なのか考えるの。。。 でもね、答えは急ぐことじゃにゃいのだ。 一緒に考えてあげるから、にゃーさんもゆっくり、のんびり考えるの。」 エルガは普段の勢いとはまるで違う、実に穏やかな、落ち着いた声で久遠に語りかけた。 「だけど・・・だけどね? にゃーたちは、にゃーさんよりもずーっと早く壊れちゃうと思うの。だから、にゃーさんが答えを出したときに・・・」 大きなエルガの瞳に、うっすらと涙が浮かんだ。 「にゃーたちは居ないかもしれないよ? だけど、にゃーたちのこと、ずーっと忘れいよね? ね、にゃーさん・・・?」 エルガの頭に、何かがぽたりと落ちた。 「馬鹿っ。。。 無責任なこと言うなっ・・・!」 久遠の涙・・・。 「おまえらが『ここに居ること』が俺には大切なんだよ。。。 それに、一緒に、ゆっくり考えようって言ったな? 言った以上、一緒に答えを探す義務があるっ! 答えが見つかるその日まで、何が何でも俺のそばに・・・傍に・・・っ!」 「わかったのだ。。。にゃー、約束する。ずっと居るの!」 「よしっ、それでこそ俺の猫爪『エルガ』だ。。。」 久遠はグラスをそっと傾けてエルガに一口飲ませた。 「ありがとなの・・・。」 涙でぐしゃぐしゃのまま、グラスをはさんで静かに見詰め合う二人・・・。 その様子を静かに見ていたマスターは、久遠に、そしてエルガにももう一杯グラスを差し出した。 「僕の昔話が、君たちにとって少しでも役に立ってくれれば幸いだよ。今日は・・・僕のおごりにしよう。 好きなだけやってくれ。」 「にゃーん!! マスターさん、ありがとなの!」 「ちょ、エルガっ、すこしは遠慮しないか!それが大人のマナーだっつーの。」 「えー? にゃーは大人じゃないよー?」 「・・・ったく、お前ってヤツは・・・。」 と、グラスを片手にエルガの頭をぐりぐりする久遠の顔は、実に穏やかであった。。。 ・ ・ ・ 終バスの時間が近づき、帰ろうと久遠が支度を始めたときだった。 何かを思い出したように、マスターはCDを入れ替えた。 「君たちは、角子さんと呼ばれるクラリネットタイプの声を持つストラーフの噂を聞いたことはないかな。」 CDが再生される・・・ 「知り合いに無理を言って録音してきてもらったんだ。」 スピーカーから奏でられるは、生録の女性の歌声。 決して音質がよいとはいえない・・・が、久遠と、なによりエルガが反応を示した。 「マスターさんっ! こ、この声・・・っ!」 「何かを感じる・・・そうだろ?」 大きく頷くエルガ。 傍らの久遠も、その歌声に聞き入ってしまい、動く事を止めていた。 「マスター、もしかして・・・。」 久遠が何かを言おうとしたが、マスターは遮るように語った。 「あまり教えてくれるな、とは言われてはいるんだけれど。」 メモ用紙を取り出すと、住所を書き始めた。 「君たちなら、おそらく彼女たちも迎え入れてくれるだろう。場所を教えてあげるから、今度の休みにでも会いに行ってきなさい。 求めている答えのきっかけくらいはつかめるはずだから・・・。」 最後に『MOON』という、おそらく店の名であろう文字を記し、エルガをポケットに入れた久遠に手渡した。 「マスター、今日はありがとうございました。」 「ほんとうに、とってもありがとなの! おやすみなの、マスターさん!」 「僕のほうこそ、長々と昔話に付き合わせてしまって。お礼を言わせてもらうよ。ありがとう。・・・では、おやすみなさい。」 久遠とエルガが帰った店の中には、神姫の歌う『コーヒー・カンタータ』が流れていた。ひとり、カウンターに座りしばし聞き入るマスター。やがてCDの演奏が終わると、酒瓶の後ろに大事にしまっている小箱を取り 出し、カウンターに置いた。箱に記された文字- -type91- 量産試作型 - 「今ここにいることが大切、か・・・。 久遠さんもずいぶんと言うようになったもんだ・・・。」 呟きながら一度もあけたことが無い箱を開けた。 - 白いボディに、ストラーフの顔を持つ神姫 - ふっと小さく息をつくと、マスターは陰に置かれた古びた一枚の写真に語りかけた。 「そろそろ、僕も神姫のオーナーとなってもいいだろうか? ・・・なぁ、『ゼリス』-。」 最終バスの車内。なんとか間に合った久遠とエルガは、いちばん後ろの席で今日のマスターの話を思い返していた。と、窓の外を見ながら久遠が呟いた。 「明日の午前中に行くぞ。」 「にゃ? どこ?」 「なんつったっけ・・・そうそう、『MOON』だ。」 「みんなで行かないの?」 「リゼとイオは・・・どうする? あいつら連れて行ったら、何らかの騒ぎを起こしかねないから・・・。」 「うにゃはぁ、にゃーさん、言うのだー。 でも、みんなで行こうよー。でないと、行く意味がない気がするよ?」 「はは、そうだね。 これも何かの運命だろう。 この機を逃さず、一気に行ってしまおうか。 さっそく帰ったら連絡を入れて、と。 そうすると、まずは川崎製麺寄ってシンメイ拾って、東杜田いってイオとリゼ拾ってから『MOON』に向かおう。」 「さんせーい!」 「どうせアレで走るんだ、都合2時間もあれば着くっしょ。」 「りょーかいなのー!」 明日への期待に胸を膨らませた二人を乗せて、バスは静寂の夜の街を走る- 。 マスターと共に、今を楽しみ、明日へ向かう神姫がいる。 ここに居るのは、戦うことを忘れた武装神姫。。。 <その25 へ戻る< <<トップ へ戻る<<
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せつなの武装神姫 主な登場人物 ――人物―― 藤原 雪那(ふじわら せつな) 「僕とティキ」の主人公『僕』にして「雪那とティキと」の主人公その一。 進学校(一応)に通う高校二年の眼鏡学生。 ティキとユーラのオーナー。 根本はオタク気質なのだが、その手の知識を多く持ち合わせていない。理由は祖父、亡父が極度のオタク体質なため、そんな大人になりたくないと自己を抑えていた為。今はそんな自己抑圧から解放されている。 そのくせに西洋剣の事に妙に詳しかったりと謎も多い。 神姫オーナーである事は学校では秘密。だったがバレた。 一年の学年末のゴタゴタで部活はやめたらしい。 式部 敦詞(しきぶ あつし) 雪那と同じ学校に通う、弓道部所属の高校二年生。二年になり雪那と同じクラスになった。 きらりのオーナー。 気遣いの出来るし、ルックスも悪くはない。というより格好良い。が性格はアレ。 ひた隠ししているが、自分がオタクである事には自覚的。だからこそ気が使える人。 未だ神姫オーナーである事は学校では知られていない。 ちなみに雪那が読んでいる「妖精騎士」シリーズはこいつが貸し出した。 司馬 仙太郎(しば せんたろう) 大学生。式部の友人。 ナイアのオーナー。 リーグ戦もこなすが、熱中しているのはジオラマを使ったゲーム。 とある二流大学でボードゲーム愛好会の会長を務めていたが神姫にハマり、愛好会は神姫愛好会の相を挺しているとかいないとか。 ちなみにボードゲーム愛好会は同学内のミリタリー研究会とは犬猿の仲である。 結城 セツナ(ゆうき ――) 「Y.E.N.N」主人公にして「雪那とティキと」の主人公その二。 某私立女子高に通う高校三年生。眼鏡の美しい少女。 焔と朔のオーナー。 前に所有していた神姫「海神」をとある事件で失う。 その事件をきっかけに神姫との関係を新たに模索し始め、現在に至る。神姫との関係は良好の様子。 感情を表情から窺い知る事が難しいとは雪那の弁だが、割と感情の動きは激しい。 式部、司馬とは旧知らしいが、詳細不明。 過去に木井津沙紘と交際していたらしい。 藤原 修芳(ふじわら あつよし) 藤原雪那の父。 数ヶ月前の雨の日に交通事故に巻き込まれ死亡。 ティキの初代オーナー。ティキに「旦那さん」とオーナー呼称登録した。 藤原 舞華(ふじわら まいか) 藤原雪那の母。 在宅の仕事をしている、とティキは言っている。 自宅を兼ねた店舗を開いている。 店の名は「妖精館」。ドールハウス用の小物をメインに取り扱う店でありながら喫茶店も兼ねるというおかしな店である。 葉月 総(はづき そう) 藤原雪那の祖父。 小説家、桜田柄今(さくらだ つかいま)。 四体の神姫を保有している。 木井津 沙紘(きいつ さひろ) 結城セツナのモトカレ。現在大学生。 シンナバーのオーナー。 多分性格はよろしくない。 朔良=イゴール(さくら・―) 結城セツナのクラスメートにて数少ない友人の一人。 「なつのとびら」の主人公。 ハーフの少女。赤毛の碧眼。そばかすが気になるお年頃。 桜田柄今の大ファン。 武装神姫を所有していない。 左右葉 夢絃(そうば・むげん) 朔良=イゴールが南房総にある町でであった青年。二十歳前後。 刹奈曰く「顔ばっかりで愛嬌も無いヘタレな人」。 故人。 ここまで無理繰りな名前だといっそ清々しいよね。 露草 流音(つゆくさ・るね) 左右葉夢絃の双子の妹。 刹奈のオーナーで、夢絃に刹奈を預けた。 朔良曰く「同い年くらいに見える」 夢絃と姓が違うのは両親が離婚したとき別々に引き取られたため。 ――神姫―― ティキ 藤原雪那の神姫。 TYPE猫爪。元々は雪那の亡父の神姫だった。 雪那の亡父の事を「旦那さん」、雪那の事を「マスタ」と呼ぶ。ちなみに「マスタ」とは「マスター」と言われるのが恥ずかしかった雪那が苦肉の策で決めたもの。 この娘のチョット偏った知識は「旦那さん」の影響。 戦闘スタイルは万能型(つまり中途半端)。特殊装備、『M.D.U.シルヴェストル』を装備して戦う。 現在セカンドランカー ユーラ 藤原雪那の二体目の神姫。 リペイント版の黒いアーンヴァル。 雪那の事を「主(ぬし)さん」と呼ぶ。「主さん」とは雪那の家に遊びに来ていた式部敦詞が決めた呼称。本当は「ご主人様」という案だったが、雪那が却下した。 語尾を繰り返す癖があり、慣れていないと聞いていて鬱陶しい。 現在バトル未経験。 きらり 式部敦詞の神姫。 式部を「マスター」と呼ぶ。 先行特別限定発売されたツガルで、素体も付いて来た。それが特別発売のゆえん。 装備はそのままツガルの標準装備風の物を使用。但しそのままなのは外見だけ。 戦闘スタイルは遠距離射撃型。ツガル特有の高機動力を活かす戦闘スタイルを模索中。 セカンドランカーにランクアップできました。 ナイア 司馬仙太郎の神姫。 アーンヴァルの素体にストラーフのコアをつけた神姫。仙太郎曰く、「オレは青い髪に白いボディースーツの組み合わせに弱いんだよ」だそうである。 名前の由来は「這い寄る混沌」から。 基本装備はサイフォスの物をそのまま流用。 某所のヴァッフェバニーが大鑑巨砲主義なら、こちらは近接戦闘絶対主義。目指すは一騎当千でなんたら無双。 それでも一応セカンドランカー。 海神(わだつみ) 結城セツナの神姫。 珍しい、忍者型フブキの神姫。表情の変化には乏しいが、それだからといって感情の起伏に乏しいわけではない。 忍者刀・風花、大手裏剣・白詰草、黒き翼にヴァッフェバニーの装備の一部で武装している。 とある事件に巻き込まれ破壊された。 海神ⅡY.E.N.N(わだつみ・せかんど・わい・いー・えぬ・えぬ) 通称・焔(えん)。結城セツナの二体目の神姫。セツナを「ご主人」と呼ぶ。 ハウリンのヘッド、紅緒のボディー、そして『海神』のCSCで構成されている。 現在の基本装備は『緋紅』と名付けられた蘇芳之胴などを改造した鎧と背部ユニットと、斬姫刀“多々良・鉄”(ざんきとう・たたら“くろがね”)。 『緋紅』には大型銃器が備え付けられているが、あまりにエネルギーを使いすぎるため一試合につき一回しか使用できない(『緋紅』の特殊スキル扱い)。 セカンドランカー。 朔 結城セツナの三体目の神姫(保有数は二)。 白いストラーフ。 セツナを「せっちゃん」と呼ぶ。 結城セツナが朔良=イゴールから譲り受けた神姫。 現在バトル未経験。 シンナバー 木井津沙紘の神姫。 ヴァッフェバニー。ヴァッフェバニーの基本装備とテグスを用いて戦う。 雪那達のいる地域では実は結構有名。雪那が知らなかったのは彼がそういうことに疎いから。 現在セカンドランカー上位。 ヒワ 葉月総の神姫。 葉月を「先生」と呼ぶ。 和服姿のアーンヴァル。 アトリ 葉月総の神姫。 某ホテルの制服と同じデザインの制服を着ている。 ストラーフ。 刹奈 露草流音の神姫。 左右葉夢絃に預けられていた。 流音の事を「マスター」と呼び、夢絃の事をそのまま名前で「夢絃」と呼ぶ。 朔良が神姫の事に疎いので、TYPEもランクも不明。 可憐な仕草とそれに似つかわしくない口調が特徴。 戻る
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戦うことを忘れた武装神姫 その24 最近、正式に「ムサコ神姫センター」との名称になった、M町のセンターの 3階にある大型筐体・CMU-381-M2。 いわゆる草リーグではあるが、中では2vs2の激しい戦闘が繰り広げられて いた。真夏のような草原フィールド、宙を飛び回るダブルツガルに対するは、 ストラーフと猫爪の組み合わせ・・・そう、かえでの神姫。。。 手が加えられ、より軽量となっている装備を活かし、速度で勝負を仕掛けて くるダブルツガル。 対するは、戦略のティナと経験のフィーナ・・・。 開始時は圧倒的な速度に押されていたかえでの2人だったが、やがてティナ が相手の弱点 -装甲の薄さ- に気づき、情報を受けたフィーナはアームの指 先を外して待機。ティナが囮になっている間に、フィーナは草原フィールド の起伏により死角になる位置へと移動した。 「-Tへ。セット完了。」 「-Pへ。-T、了解。あと7.5sで到達。」 「-P、了解。」 短いやりとりをすると、ティナは四脚にてフィーナの潜む窪地へと一直線に 駆け出した。 後を追うは、HEMLを両の手に構えたツガル2体。 脚力には定評のある猫爪ではあるが、空間を一直線に移動できるツガルの方 が、当然速く移動できる。 間合いが詰まる。 2体のツガルは、照準をティナの背中に合わせた・・・ その瞬間。 窪地から、ツガルたちの目前に10個の小さな黒い物体が放り出された。特殊 鋼材でできた、フィーナが自らのアームから取り外したアームの指だ・・・。 速度を求めるがあまり、装甲を減らし過ぎたツガル2体は、自慢の速度が仇 となり、突如出現した固い物体を避けることが出来ず、全身に思い切りブチ 当ててしまった。 「衝撃は速度の二乗に比例しますから、それに見合った性能の対衝撃装甲を するべきにゃのです。」 見事撃墜され、目前に落ちてきたツガルの2人に、静かに語りかけるティナ。 「チームワークも、速さも照準も申し分がありません。ですが、装備に関し ては、今一度考えた方が良いでしょう。」 フィーナはちらばる指を拾い集め、元の通りにアームへ組み付ける。 「それだけの能力、装備で殺してしまうなんて・・・」 「もったいにゃいですよ?」 2人の余裕の様子に、白旗を揚げるツガルコンビ。 「勝者、ティナ・フィーナチーム!!」 ジャッジマシンが勝利を告げた。 土曜の午後、けっこうな人の入りの中、 わき上がる拍手。ダブルツガルのオーナーと握手を交わし、互いの神姫たち の健闘をたたえるかえで。 2人の周りには、顔見知りとなった仲間たちが 集い、話に花を咲かせる・・・。 ・・・今やすっかり川崎家の一員としての生活にも慣れたフィーナ。 普段は、かえでのちっちゃいお目付メイドとして、ティナと共に、いわゆる うっかりさんのかえでを冷や汗混じりでフォローする毎日。 だが週末には、 自らの存在を確認する意味でも、一戦は必ずこなしているとか。 一方のティナはといえば、フィーナに稽古を付けてもらい、また自ら研究を 重ねたことで、猫爪にしては大変に珍しい「頭脳格闘派」として名を馳せて いた。 とはえい、基本は猫爪、ネコネコしい事に変わりはないのだが。 一時期、引きこもりがちになったかえでに、そっと父親が渡したもの、それ が猫爪型武装神姫。。。 所詮は大人向けのおもちゃ、そんな気持ちで起動させた。 静かに起動する ちっちゃい仔猫。 好きだった絵本の主人公の名をとり、ティナと名付け、 傍らにポンと置いた、それだけの存在だったはずなのに。 戦う格好をした 人形、ただそれだけだったはずなのに。 いつの間にか、自分の生活に溶け込んで、 いつの間にか、当たり前の存在になり、 いつの間にか、無くてはならない存在になっていた。 この子がいるから、頑張ってみようと思う。 この子が応援するから、あと 一歩を踏み出そうと思う・・・ 気が付けば、だれとでも話せるように なった自分が- 。 そんなときに起きたあの事件。 かえで自身にとっても、大きな転機となった。 ちっちゃいけど、精一杯がんばる神姫の姿。 それは、ヒトが作りし、ちっちゃい心。。。 「かえでちゃん、どうしたの?」 「あ、ごめ〜ん。ちょっと考え事していて。」 神姫仲間の一人に声をかけられて、はっと我に返るかえで。 フィーナに 引っ張られるように始めた神姫バトル。 今では、ここに週一回来ることが 楽しみでならない・・・。 ここに来れば、同じ志を語り合える「仲間」が 待っているから- 。 「そうだ、かえでちゃん、推薦で大学決まったんでしょ?」 恥ずかしそうに、かえでは顔を赤らめる。 「えー? 何で知っているの?」 「この前フィーナちゃんが言ってたじゃない。 えーっと・・・」 「T工大。Dr.CTaさんみたいになれればいいな、って思って。」 私に道を開いてくれた、ちっちゃい存在。 自分にだって、造り出せるはず- 。 「へぇ、それはすごいねぇ。」 いつの間にか話に加わっていたムサコの店長が口を挟んだ。 「て、店長さんまで・・・。」 「お祝いってわけじゃないけど、これをあげよう。・・・使うかな?」 と、手渡された小袋。開けるとそこには神姫サイズのメイド服。ブランドは TODA-Design、しかも Battle Use ONLY とデカデカと書かれている。 「いいんですか? 頂いちゃって・・・」 「どうぞー。 先週だったっけ、君たちと話をした、CTaさんじゃないコス プレのねーちゃんがいたろ、ハウリン連れた。あの人が戸田さん本人だった んだよ。 で、戦うメイドって言葉が似合うから- 、って作ったんだとさ。」 「はぁ・・・嬉しいのですが、ティナはともかく、フィーナがどう言うか。」 「私がどうかしましたか?」 ツガルたちとの話が一段落したのか、ひょっと顔を出すフィーナ。 「こういうの、着る?」 かえでが広げた服に、一瞬目を丸くするフィーナ。 「イヤです、といっても、マスターもしくはティナに無理矢理着せられるの がオチでしょう。。。」 「・・・イヤなの?」 が、フィーナはすぐにいつもの笑顔に戻った。 「ふふ、ウ・ソ・です。 こういうの、私好きなんですよ。」 まだツガルたちと話をしていたティナを呼び、2人で袋にはいるとごそごそ と着替えを済ませ、出てきたときには・・・ マシンガンが似合いそうな姿 のメイド神姫になっていた。と、横から仲間の一人が言った。 「やっぱ、二つ名は『戦うメイドさんズ』でいいんじゃないですか?」 ふたたびわき上がる拍手。 対戦相手のマスターも、ダブルツガルも拍手を している。その暖かな輪の中で、嬉しそうにクルクル舞うティナとフィーナ。 「どうです? マスター。 似合いますか?」 「かえでちゃん、見てみて! ここに隠し武器があるの!」 その姿に、かえでは心の底からうれしさがこみ上げてきていた。 気が付けば、いつも仲間がいる。 もう、寂しくなんかない。 だから、決めたんだ。 いつの日か、仲間をつないでくれた、 小さな存在を、自分が神姫を作るんだ、と-。 <その23 へ戻る< >その25 へ進む> <<トップ へ戻る<<
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2月14日の武装神姫-03 「ただーいま。 おとなしくしてたかな〜?」 久遠、帰着。 手にする紙袋には、半額売りされていた特大のチョコレート ケーキが入っている。。。 「おかえりなのー。」 と、出迎えるエルガ。 とりあえず室内の様子を探る久遠。 「? にゃーさん、どうしたの?」 「いや・・・去年のことがあるから・・・」 「にゃーん。 もうにゃーたちだけで作ったりはしないですよ〜。」 「良かった・・・ ってちょい待ち! 今、『にゃーたちだけで』は作らな かった、って言ったよなぁ?」 「にゃっ!! い、いってない! 言ってないのっ!」 「なんか隠しているだろう。」 入室拒否しようとするエルガをむんずと掴んで、ずかずかと部屋に入る久遠。 部屋の中で変わった様子はない・・・ 次、キッチン!・・・も異常なし、か ・・・いや、異常発見! 「チョコレートと油のニオイがするぞ。」 聴覚と嗅覚には自身のある久遠、聞き耳を立てる。久遠の手の中では、エルガ が冷や汗ダラダラ。。。 かたり 「そこだっ!!」 バタン! 戸棚の下の戸を開けると、そこにはシンメイ、イオ、リゼの3人と、 沙羅とヴェルナと・・・メイド姿のCTaが、かなり無理な体勢で収まっていた。 「・・・お前ら、何やってるんだ?」 驚くよりも、まずはそのスタイルに呆れる久遠。 「どこから説明したらいいかなー・・・とりあえずヌシさん、悪いけどCTaの ねーちゃんを引っぱり出してくれないか? 無理矢理つっこんだら、出せなく なっちゃった・・・」 珍しく困惑した表情で、かつストレートにお願いするリゼ。 確かに、CTaの 顔色も・・・良くない・・・ 「って、呼吸困難になってるじゃないかっ!」 手にしたエルガをほっぽりだし、大慌てでCTaを引きずり出す久遠。だがどの ように入ったものか、なかなか出てこない・・・ 数分後。 「はぁ、はぁ・・・ 死ぬかと思った・・・」 飛びかけていた意識がようやくハッキリしたCTaは、久遠から受け取った麦茶 を飲みながら、 「だから、バレンタインじゃない、今日は。だからちょっとどっきりイベント をしようと思って、先にあがって作業をしていたわけ。」 等と、経緯を説明していた。 「先回りも何も、俺の部屋にピッキングで入る時点でどうかと思うが。しかも 機械油くさいメイドのままだろ?」 「細かいことは気にしなーい。」 「そういうレベルじゃないって、犯罪だってば。」 「まぁまぁ、あたしとあんたの仲じゃないか。つーことで、はい義理チョコ。」 半ば強引に丸められた気が・・・と苦笑いする久遠に特大のチョコが渡された。 「あとはあんたの神姫たちの本命チョコがあるぞ。 今年はあたしが監修した から、神姫の脚とかは入ってな・・・」 と言うが否や、イオの酒瓶による一撃がCTaの後頭部に炸裂。声もあげられぬ 程の痛みなのだろうか、その場にうずくまるCTa。 その姿に沙羅がぼそり。 「イオぉ、気持ちは分かるっすけど・・・ あ、すんまそん。。。」 だが、イオの怒りの涙目に謝り小さくなる沙羅。 さらに十数分後。 久遠に冷却パックをもらい後頭部に当てて、イオたちに一言二言告げたところ で、CTaは仕事の続きがあるとのことで、メイド姿のままで帰っていった。 「はぁ・・・何だったんだ? ったく・・・。」 CTaと沙羅・ヴェルナを送り出し、再び部屋へ振り向くと、目の前にふよふよ と浮かぶイオ。 「マスター、いつもお疲れさまです。これ、私たちの気持ちです。受け取って 下さい〜!」 と、足下ではシンメイとエルガが、テーブルの上ではリゼが、それぞれにハコ や包みを用意していた。ちょっと照れたそぶりでリゼが、 「どっきり大作戦は失敗しちゃったけどねー。」 と言うと、シンメイも続けた。 「今年は昨年のようなことがないようにと、CTa姉様が手伝って下さったので 大変に良いモノが出来ましたよ。」 皆からものを受け取り、さっそく開く久遠。昨年のように大きなもはないが、 下手な洋菓子屋よりも手の込んだ「作品」であった。 リゼは、生チョコ風に仕立てたのハート型。 イオは、自らの顔をモチーフにした彫り物。 シンメイは、完全な球形のマーブル柄のチョコ。 エルガは、にくきゅう型のクランチチョコ。 いずれも食べるのが惜しいくらい。 「あんれまぁ・・・ 本当にお前たちが作ったのか?」 頷く4人。自称、彼女いない歴=年齢な久遠、 「2年連続で、こんな形でチョコもらえるなんて・・・ 俺ぁ嬉しくて・・・」 と、涙を浮かべる。 ふらり立ち上がった久遠は、自室へ入り秘蔵のシングル モルトを持ってきた。 「嬉しくてたまらない!今日は飲むぞ! つまみはチョコとこのケーキだっ!」 テーブルに、酒瓶とケーキと、神姫たちのチョコが並べられた。 「にゃーん!! そんなに喜んでもらえると、にゃーもうれしいのだ!」 久遠に飛びつくエルガ。 それを引き剥がそうとするシンメイ。 「あっ! マスターの独り占めは許しませんよっ! エルガ、離れなさい!」 片やこちらでは、 「そうだイオ、ナッツ持ってきてよ。 あたしゃ漬け物出すから。」 「そうですねぇ・・・リゼ、漬け物じゃなくて氷の支度をお願い。」 と、飲みモードに突入しているお二人。。。 かくして、久遠と神姫たちの、2月14日の夜は更けていく。。。 ・ ・ ・ ・ ・ ・ 「どれっくらい呑んだんだろう・・・。」 深夜。 テーブルに突っ伏したまま寝てしまった久遠、のどの渇きて目を覚ま した。 散乱する酒瓶、空き缶。 ケーキの皿は見事に空っぽ。 だが、神姫 たちのチョコは・・・ すべてきれいなまま。 久遠は、勢いで食べることは しなかったようだ。 「これは・・・ 静かに、ひとりでうれしさを味わいたい時に食べようかな。」 麦茶を飲みながら、ハコや包みに戻し、自室の机の上へ置いた。 と、その時 ふと思い出した久遠は、 「そういや木野羽のやつ、何を作ったんだ? 義理チョコっていうには・・・」 先に渡されたCTaの包みを開けた。 「あいつ・・・。どこが義理チョコなんだよ。 食えないじゃないか、こんな もの・・・。」 デスクライトで照らし出されたそのチョコには、久遠の神姫たち4人と沙羅・ ヴェルナの顔が実に美しく描かれ、真ん中には小さく「Love for YOU」。。。 久遠はふっと息をつき、イスに腰掛けて笑みを浮かべると、机からミニチュア ボトルとショットグラスを取りだし・・・ CTaのチョコを目前に置き、それ を眺めながらグラスを静かに傾けた。 同時刻、東杜田の片隅。 工場に隣接する公園のベンチ。着込んでモコモコになった木野羽は、ポケット にちいさな2人を入れて、缶ビール片手に3人で夜空を眺めていた。 届け、ちいさなものに乗せた、あたしの想い-。 今日は2月14日。 大切な貴方へ、想いを伝える日-。 <トップ へ戻る<
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戦うことを忘れた武装神姫 - type_S -08 楽屋 イオ「こんばんは。今回のお話ではリペイント版として登場いたしました、イオです。あ、塗色ですか?これ、絵の具なんです。」 リゼ「マスターに恋する神姫ってのはよくいるけれどねー。ここまで歪んだ愛を『求める』神姫はそうそういないだろうねぇ。」 イオ「さすがの私も、今回の役は・・・もう二度とやりたくないですよ(苦笑」 リゼ「あはは、そういうと思ったよ。さすがはイオだ。」 イオ「・・・。何か引っかかりますが・・・」 リゼ(汗) イオ「まぁ、いいでしょう・・・ささ、夜も更けてまいりました。それでは・・・」 リゼ「おやすみ~。」 <<トップ へ戻る<<
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戦うことを忘れた武装神姫 その35 とある休日。 僕はツガルのマーヤと共に昼飯がてら近場の公園を散策していた。 穏やかな天気の午後とあって、公園内は家族連れも多い。 「そろそろ紅葉の季節だね・・・」 僕が言うと、 「・・・朝晩が涼しくなりましたから・・・。」 ポケットに収まるマーヤも木立を吹き抜ける風を感じていた。 ・・・と、突如子供の泣き声が側から響いてきた。・・・やべっ、転ばせたか?立ち止まって振り返る。 なんだ、別に転ばせたりしたわけでは無さそうだ。単に駄々をこねているだけかな。 「あの、おにいさま・・・あれ・・・っ!」 再び歩き出そうとしたとき、マーヤが僕を呼び止めた。 マーヤの視線の先には、ジュビジーが風船にくくりつけられフワフワと上昇しているではないか。 その下では子供が泣き叫び、おそらく母親と思しき女性がうろたえていた。 ・・・おいおい、何をしたんだあんたたちは。 幸いにも風船は紐が木の枝に引っかかったが、とても手が届きそうもない高さ。 母親が周囲の人に声をかけ助けを求めてはいるが、宙づりのジュビジーが半ばパニックとなり、早くしないと・・・ 「あっ!!」 様子を見ていた一人が声をあげた。 ジュビジーが暴れたことで風船の紐が枝から外れ、再び上昇を・・・こりゃいかん・・・!! 「おにいさま、私を投げて下さい!」 さっとフル装備を整えたマーヤがポケットから飛び出した。 「おう、了解だっ!」 マーヤが何を言いたいか、目を見ればわかる- 。身を丸めたフル装備のマーヤを手に乗せ、かつてリトルリーグ時代には地区準優勝まで導いた自慢の肩で- 「どっせぇいっ!!!」 風船めがけてマーヤを放った。 どこまでも抜けるような青い空を撃つ、赤い弾となったマーヤ 。 さっくり風船を撃ち抜き、すぐさま全身の装備を展開、エアブレーキと同時にバーニア全開で反転。悲鳴を上げて自由落下するジュビジーに追いつき・・・見事にキャッチ。 重量の割には高い出力のある装備を纏うツガル型であるマーヤは、軽々とジュビジーを抱きかかえて、かの子供の手の届く高さの枝へと降り立った。 「ふぅ・・・ミッションコンプリート、ですね。」 子供の手の中に飛び込むジュビジーを確認し、ほっと一息ついたマーヤがふわりと肩へと戻ってきた。 周囲から沸き上がる歓声と拍手。 「おつかれさん。」 「おにいさまこそ、ナイスで正確なスローでしたよ。」 ・・・聞けば、母親が目を離した隙に子供が風船にジュビジーを結びつけて、振り返ったときにはあの状況だったらしい。 「今度からは悪戯をしないようにね。神姫はおもちゃじゃないんだよ。」 まだ涙目の子供に、しゃがんで声をかける。 横では母親がまるで何かの、それこそおもちゃのように頭をヘコヘコ下げている。なにも、そこまでされる柄じゃないってば・・・ん? どうしたマーヤ? 「おにいさま大変です! あと・・・15分で、これから行くラーメン屋の替え玉無料サービスが終わってしまいます!!!」 差し出された小さな神姫サイズの懐中時計を見れば、時刻は間もなく14時。 「うおぉ! い、いかん! いそぐぞっ!!」 「はいっ!」 再びマーヤをポケットに収め、僕はラーメン屋を目指し秋の風を頬に感じながら、公園を駆けていった。 <<トップ へ戻る<<
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戦うことを忘れた武装神姫 その43 ・・・朝。 目覚ましの音に、久遠はけだるそうに体を起こした。 珍しく、神姫たちの助けを借りずともおきられたな・・・そんなことを考えながら立ち上がり、机上のクレイドルで寝ているエルガを突付いて起こす。 「おはよう、エルガ。」 ゆっくりと起き上がったエルガは、ごしごしと大きな瞳をこすりながら久遠を見上げると。 「・・・ごしじんさまのことは、にゃんとおよびすればいいでしょうか?」 着替えようとシャツを脱ぎかけていた久遠の動きが止まった。 「ちょ・・・え・・・エルガ・・・?」 「ごしじんさまのことは、にゃんとおよびすればいいのでしょうか」 セットアップの時の、まさに機械的な音声で応える・・・いや、反応するエルガに、久遠の顔色が変わった。 強制リセットがかかったのか、はたまた何かのエラーが起きたのか・・・戸惑う久遠だったが、ふと思い出したかのようにイオの姿を捜し求めた。 「あいつなら・・・神姫の技術的なことに関してはあいつが一番知っているから・・・何か、何か知っているはずだ!」 ワタワタとうろたえながら部屋を見回せば、イオは本棚に置かれたスコッチ辞典の脇に置かれたクレイドルで寝息を立てていた。半ば叩き起こすかのようにイオを起こす久遠。 眼を開いて顔を上げたイオに、久遠は少し上ずった声で話しかけた。 「イオ、起きて早々ですまないが・・エルガの様子がおかしいんだ、ちょっと診てくれないか?」 すると、イオは・・・。 「マスターの事は、なんとお呼びすればよいのでしょうか。」 再び、久遠の動きが止まった。 「イオ、い、いま何と・・・」 だがその声に対しても、 「マスターの事は、なんとお呼びすればよいのでしょうか。」 と、イオはエルガと同様に機械的な反応を繰り返した。 (まさか・・・。いや、しかし・・・) 全身の血の気が引くような感覚に襲われた久遠は、最後の望みであるシンメイを呼んだ。イオほどの知識はないけれど、神姫の損傷診断能力スキルは十二分に持つシンメイなら・・・っ! 「シンメイ、シンメイ! 起きているんだろ?」 今日は目覚まし当番のシンメイ、早めに起きて食卓辺りにいるはず・・・。だがしかし返事はない。どこにいるものかと探せば、食卓に置かれた大型の共有クレイドルの上でスリープスタイルに。 久遠の背中に、悪寒が走った。 恐る恐る声をかける久遠。 「シンメイさーん・・・。」 すると、シンメイは静かに顔を上げ、瞳を開けると。 「マスターの事は、なんとお呼びすればよいのでしょうか。」 * * * ・・・朝飯を食べることも忘れ、部屋のカーテンを開けることも忘れ。久遠は3人を食卓の共有クレイドルに乗せて再びスリープモードとして、傍らに置いたネットブックで必死に調査をしていた。だが有力な答えは得る事が出来ず。ぐしゃぐしゃと頭をかき、檻の中の熊のように家の中をグルグル歩いたかと思えば、再び座って検索・・・。 そうこうしているうちに迫る出社時間、久遠は大きなため息をつき、神姫たちと、神姫たちが寝ていたクレイドルをバッグに詰めた。 春らしくない寒空の下、神姫たちを詰めたバックを下げた久遠は、出社前に東杜田技研へ立ち寄ると守衛に頼みCTaを呼び出した。 しばしの後やってきたいかにも徹夜明けといった姿のCTaは、面倒くさそうにしながらも久遠の語った今朝の出来事をしっかりと聞くと、「調べるだけ調べてみる」と言いながら、神姫たちとクレイドルを久遠から預かった。 仕事にろくに手が付かず、どことなく上の空のまま時間を過ごし、退社時間になるや否や飛び込みの仕事もガンと拒否し、大急ぎで東杜田技研へ。 すると、図ったかのように入り口で待っていたCTa。 どうだったか、とバイクから飛び降りながら聞いてくる久遠に、CTaは軽く肩をゆすりながら笑みを浮かべて。 「基本的に異常は無しだなー。 ・・・ま、今日1日くらいは神姫たちを寝かせてやれ。明日には直るだろうよ。」 と言いながら久遠に、神姫たちとクレイドルが入ったカバンを手渡した。 そしてまた忙しそうに、工場内へと消えていった。 帰宅した久遠は、机の上にそれぞれのクレイドルを並べ、神姫たちを再びスリープ状態として並べた。 静かに眠る3人を前に、久遠は再びネットブックで、思いつく限りの調査を開始。神姫本体から、クレイドルの不調、果てはくれイドルにつながるケーブルへのノイズ干渉・・・。しかし有力な結果を得られぬまま、やがて久遠はいつの間にか眠ってしまっていた。 翌朝。 「にゃーさん、はやくおきるの! おきないと遅刻するの!!」 久遠の耳に響く聞きなれた声、そして耳たぶを引っ張る何か。 「にゃーん!! 起きないと、魚肉そせじ全部食べちゃうよ?」 ・・・間違いない、この声の調子は・・・ 「・・・エルガ!」 「うぉ・・・にゃーさんなにをするやめろくるしい・・・むぎぅ・・・」 久遠はエルガを手にしてほお擦りをしていた。 すると、今度は久遠の肘を何かが突付いた。 「あの、マスター。お楽しみのところ申し訳ありませんが、今日は早番だったかと・・・。」 そこには、タッチペンを手にながらPDAの週間予定表を指し示すイオの姿。 「良かった・・・元に戻ったのか・・・っ!!!」 イオの頭を撫でようと、久遠がエルガを開放し手を伸ばすと、 「もう・・・はやくしてください!今週は皆で朝ごはんを食べようって決めたじゃないですか。」 と、今度はシンメイが、エプロン姿でやってきた。 シンメイの姿を確認した久遠は、眼に涙を浮かべ、何も言わずに大きく頷き、神姫たち3人と共に食卓へと向かった。 ・・・しかし、昨日のアレはいったいなんだったんだろう・・・? CTaは何か知っている感じだったが・・・まぁいい、そのうち時間がある時にゆっくり教えてもらうとしよう。いまはただ、皆がいることを喜びたい・・・! そう考えながら、朝食のためのフレンチトーストを手際よく作る久遠なのであった。 * * * 「・・・ということが、3年前にあったのさ。」 H市のバー。久遠は、リゼと共に酒を楽しんでいた。 3年前の4月1日に、久遠に降りかかったエイプリルフールのネタ。今でこそ笑える話だけれどね、と〆た久遠の話を、リゼは興味深く聞いていた。 「それにしても。ずいぶんと手の込んだエイプリルフールネタを振ってきたんだねぇ・・・。」 と、小さなグラスに注がれたモルトを傾けるリゼ。 「まったくだよ。 『あの焦り具合がとってもキュートでした』なんて、しばらくの間シンメイにまで言われてたんだぜ。 しかも、その入れ知恵したのがCTaだっていうんだから、もうね・・・。」 「まー、確かに全員がリセットなんてなったら、ヌシさん悶絶して爆発するでしょ」 「そうだなぁ。爆発はしないまでも、どうかなるかもしれないな。」 久遠もまた手元のグラスを傾け、さらに数日後に、CTaの神姫である沙羅とヴェルナからネタばらしをされた時のことを教えた。 結局、エイプリルフールに絡めたネタ、演技だったわけだが、数日前から入念に準備を進め、CTaのところに駆け込むという流れまでも計算し、エルガは喋り方の練習までしたとか・・・。 それらの経緯を手元のグラスを空にしながら久遠が教えると、リゼは楽しそうにクスクスと笑った。 「ヌシさんは変に正直なところがあるからさ。向こうとしても『うわぁ!入れ食い!つられてやんの!』って感じだったんじゃないかな、クックック・・・」 「おいおい、リゼ。それはどういう評価なんだよ。」 苦笑いを浮かべた久遠に、ウインクで返したリゼ。 「で。今年のエイプリルフールは逆襲してやろうってわけだね」 久遠の意を汲んだリゼは、瞳に、隠しきれないワクワクした輝きを見せながら、にやりと笑みを浮かべた。 「そういうこと。 リゼはこういうイベント、好きだろ?」 久遠がメモ帳とボールペンを取り出しつつリゼに振ると、 「ふっふっふ・・・聞くまでもないだろう・・・ この作戦、リゼ様に任せなさい!」 自信満々な顔つきでびしっ!と人差し指を立てた。 「さぁて、逆襲として効果的で、しかし1日で毒が抜けて・・・あとで小噺のネタに出来るような、そんなエイプリルフールに出来るよう、しっかり仕込みをしようかね。」 今日は3月31日。バーの片隅、静かな時の中で。 酒を片手にした二人の作戦会議は、まだ始まったばかり-。 ニンゲンのココロに寄り添い、「嘘」をビタミンとしたいと想う神姫がいる。 そう、ここにいるのは、戦うことを忘れた武装神姫-。 <<トップ へ戻る<<
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戦うことを忘れた武装神姫 その41 係長という肩書きにより、取引先からいただく事が出来た高級ビールが、いくら探しても見当たらない。昨晩まで、たしかにこのテーブルの上にあったのに。 諦めて、麦茶にしようと冷蔵庫へ向かったそのときだった。 がたん、どす! 中身の入った飲料缶が落ちる音がした。 振り返ると、そこには小さなロボットがビールの缶に半ば押しつぶされるかのごとく倒れている。 「・・・ディーニャ・・・ お前、何してたんだ?」 マオチャオ型をベースに東杜田技研で試作されたMMS、type T-TAK「ディーニャ」。 白色に緑色のペイントが施された素体、髪はロングのアップポニー。アタマには大型のはんぺんネコミミを装着し、手にはにくきゅうグローブを装着しつつも、目と口元にはマオチャオの面影が色濃く残る。 ビールの缶をのけて、まだ目を廻しているディーニャを摘み上げた。 「起きろっつーの。 狸寝入りしてるのバレバレだぞ。」 ふにふにとネコミミを突付くと、くすぐったさを我慢できなくなったのだろう、もぞもぞと動き始め・・・ 「にゃ、や、やめるのだ! やめろー!!!」 手の中でジタバタと暴れるディーニャ。 摘んだまま顔の高さまで持ち上げ目線を合わせると、バツが悪そうに目を泳がせるディーニャ。 「さて、今何をしていたのか。 正直に言いなさい。」 眼力で迫ると、ディーニャはネコミミをふにゃりと垂らし、 「にゃは・・・びーる、のみたかったのだ・・・」 相変わらずの酒好きめ・・・。 「だから、びーるかくしてたの。こかげのだいじ。 あきかんと、いっしょにするとわからにゃいの。」 本来は、旅のお供のサポート神姫としての研究開発が進められていたディーニャ。 しかし、マオチャオ型をベースとしてしまった上、我侭に育った小型ロボットのAIを用いてしまったが故に。 妙なところで知恵の廻る、いまひとつ使えない旅サポート神姫となってしまったのだ。 かといって、ある程度は成果をあげているこのプロジェクト、ひとまずはディーニャの育成を進めてみることに・・・なったのである。 そして。 プロジェクトに関わっていながらも神姫を持っていなかった俺が、当面の教育係となってしまった、というわけだ。 「にゃーさん、ごめんにゃさい。」 テーブルの上で、素直に謝るディーニャ。だがこいつの場合は「素直に謝ればビールが飲める」ことを期待しての行動に他ならない。 ポニーテールを揺らして謝る姿はかわいいが、ここは心を鬼にしなければならない。 「ふむ。だが、独り占めしようとしたことは罪である。よって、このビールは俺が飲み干す。」 泣き出すのではないかと思うほどに目を潤ませ、ビールの口を開けて飲もうとする俺を凝視するディーニャ。 耐えろ、耐えるんだ・・・っ! ディーニャの視線を痛いほどに感じつつも、俺はビールをぐびっとひとくち。すると、ディーニャはぴょんとテーブルから降りて。 「いいもーん! まだかくしてあるびーるはいっぱいあるんだからー!」 そういいながら、俺の散らかりきった部屋へと駆け込んでいった。 ・・・まだ・・・隠してある・・・?! 「ちょっと待て! お前いつの間に!!! どうりで最近、酒の減りが早いと思ったよ・・・! こらディーニャ!どこへ隠しているんだ!!」 「にゃはー! それはひみつにゃのだー!」 -今宵も、ディーニャとの追いかけっこは続く-。 <<トップ へ戻る<<
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武装神姫 コメント コナミデジタルエンタテインメントから発売されているフィギュアシリーズおよびオンラインゲームサービス。 トゲキッス アーンヴァル(天使型) ストリンダー ストラーフ(悪魔型) オーバードライブ必須。 テッカニン フブキ(忍者型) ルカリオ ハウリン(犬型) ニャース マオチャオ(猫型) ミミロップ:ヴァッフェバニー(兎型) エルレイド:サイフォス(騎士型) カモネギ:紅緒(侍型) デリバード:ツガル(サンタ型) ロズレイド:ジルダリア(花型) フシギダネ:ジュビジー(種型) オクタン:フォートブラッグ(砲型) 発射系の攻撃が多いので ムクホーク:エウクランテ(セイレーン型) ミロカロス:イーアネイラ(マーメイド型) ジュゴン:ヴァッフェドルフィン(イルカ型) ライコウ:ティグリース(寅型) ミルタンク:ウィトゥルース(丑型) エレキブル:グラップラップ(建機型) 色だけなら似てるよ! ハッサム:アーク(ハイスピードトライク型) マニューラ:イーダ(ハイマニューバトライク型) マニューバだけにマニューラ・・・ってちょっと苦しいか バタフリー:シュメッターリング(蝶型) オオスバメ:飛鳥(戦闘機型) メタグロス:ムルメルティア(戦車型) ブーバーン:ゼルノグラード(火器型) ヘラクロス:ランサメント(カブト型) カイロス:エスパディア(クワガタ型) グライオン:グラフィオス(蠍型) ドラピオンじゃないのはグラつながりだから クロバット:ウェスペリオー(蝙蝠型) エレキブル:ベイビーラズ(エレキギター型) コロトック:沙羅檀(ヴァイオリン型) ピクシー:ウェルクストラ(天使コマンド型) ムウマ:ヴァローナ(悪魔夢魔型) サーナイト:ハーモニーグレイス(シスター型) ハピナス:ブライトフェザー(ナース型) オオタチ:パーティオ(フェレット型) パチリス:ポモック(リス型) フーディン:メリエンダ(スプーン型) 無理やりだがスプーンを握っていることから コメント 名前 コメント すべてのコメントを見る ストリンダー ストラーフ(悪魔型) オーバードライブ必須。 -- (ハ!) 2021-07-25 21 05 31 草案 主題歌 OPテーマ ガラガラ:孤高のカタルシス EDテーマ ラブカス:か弱き十字架の愛 -- (ユリス) 2021-07-17 16 59 27 トロピウスorハリテヤマorダグトリオorゴマゾウ アーンヴァル(天使型) -- (ハ!) 2021-07-17 15 44 37 草案 フーディン:メリエンダ(スプーン型) 無理やりだが キュウコン:蓮華(九尾の狐型) レパルダス:アーティル(ヤマネコ型) ジュカイン:オールベルン(剣士型) エアームドorトゲキッス:ヴェルヴィエッタ(ビックバイパー型) -- (ユリス) 2016-03-04 22 30 18 オスしかいないポケモンは論外じゃないか -- (名無しさん) 2011-10-21 02 08 43 ヴァッフェドルフィンにジュゴンはどうかな? -- (名無しさん) 2010-12-18 09 30 23
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戦うことを忘れた武装神姫 - type_S -07 楽屋 リゼ「どーもー。主演のリゼだよーん。」 イオ「監督のイオです。」 リゼ「この話、細かい設定一切なしなのねん。 皆様で、どういう場面かをどうぞ考えてくださいって方向で。」 イオ「それから・・・マスターが勢いで作ったということなので、お見苦しいこと、どうかご容赦を。」 リゼ「そろそろ本編も進めてもらわないとね。ねぇ、ヌシさ・・・あれ?」 イオ「ふとんの中はマオチャオのぬくもりとか言いながら寝てしまいましたよ・・・」 リゼ「まぁ、いっか。 あたしもヌシさんと寝るー!」 イオ「あ、こら! 監督の私をさしおいて・・・」 かくして、夜は更けてゆく。 <<トップ へ戻る<<